第17章 死穢と光の狭間で
白い手袋が喉元を離れてからも、
あの冷たさは皮膚に焼きついたままだった。
治崎は再び距離を取り、椅子へと戻る。
そしてふたたび、沈黙。
だがその静けさの先に、低く、静かな声が落ちた。
「……なぜ、ヤツらは──」
「なぜヴィラン連合は、そこまでしてお前に固執する?」
その問いに、私はほんの一瞬、目を伏せた。
けれど、すぐにフッと微笑む。
それは軽蔑でも、強がりでもない。
ただ、ほんの少しだけ、諦めに似た笑みだった。
『そんなの……みんな、同じです』
『“私”を使って、自分の欲望を叶えたいだけ』
私の中にあるこの“想いの力”を──
誰もが利用しようとする。
形は違っても、願いの向き先は皆、自分だ。
その言葉に、治崎は目を細める。
けれど、問いを止めなかった。
「……あの男は、違うように見えたが」
治崎の口から「あの男」と出た瞬間、
空気の温度が、ほんの少しだけ変わった気がした。
私は、一呼吸だけ置いてから答える。
『……あの人は、ただ私を壊したいだけ』
目を逸らさず、まっすぐに言った。
それが、真実だったから。
『それが……楽しくて仕方ないんですよ』
皮肉でも、嘆きでもない。
ただ、観察するような口調でそう言った。
その異常さを、私はもう知っている。
だからこそ、怯えはしない。
でも、忘れられもしない。
治崎は、それ以上何も言わなかった。
けれど彼の目は、ほんの一瞬だけ、
「理解不能なものに触れた」ような、微かな揺らぎを見せた。
そして室内には、ふたたび沈黙が降りた。
それでも――その静寂はもう、
ただの“脅威”だけではなかった。
彼の中に、理解不能な“何か”が芽吹いた。
それを、私は感じていた。