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【ヒロアカ】re:Hero

第17章 死穢と光の狭間で



部屋に入った瞬間、
空気が変わった。

扉が閉まる音だけが響き、あとは――何もなかった。
ただ、無機質な光とコンクリート。
その中心に、治崎廻が座っている。


一歩踏み入れても、
彼はすぐには口を開かなかった。
視線だけが、鋭くこちらを捉えている。

私はただ、その視線を受け止める。
椅子にも座らず、言い訳もせず。


やがて。


「……あの男と、何を話していた」

静かに、けれど明確な圧を含んだ声が落ちた。
それは命令でも怒声でもない。
ただ、問い。


私は、しばらく何も言わなかった。
けれどやがて、低く、ひとことだけ答える。


『……私の、大切なものを……返しに来ただけです』


それだけを、確かに。


治崎はしばらく沈黙を保った。
じっと何かを見極めるように。

やがて、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
無音のまま、歩み寄ってくる。

そして――


白い手袋の指が、私の首元に触れた。

ぞっとするような冷たさ。
ほんの僅かな圧が、喉元にかかる。

もし、この手袋がなければ。
その瞬間、私は“壊されて”いたかもしれない。


けれど私は、怯まない。


「……なぜ逃げない」

囁くように問われる声。
その奥にあるのは怒りではなく、
まるで“理解できない”ものに触れたような、不気味な静けさ。


私は、ゆっくりと言葉を紡いだ。


『……私には、“価値”があります』

『あなたがそれを、わざわざ壊すとは思えません』


“想願”。
この身に宿る個性。
それが、彼の思惑にどれほど利用価値があるか――
私は、知っている。


沈黙が落ちた。
首に添えられた手が、しばらく動かない。


やがて。


治崎は何も言わずに、手を離した。


その動作も、音もないほど静かだった。
彼の目だけが、変わらず私を見ていた。

まるで、
「その価値は、果たして本物か」と問いかけるように。

その静けさが、
私の胸の奥を、じわじわと締めつけていく。
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