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【ヒロアカ】re:Hero

第17章 死穢と光の狭間で



私は、羽根のペンダントをそっと胸元に押し当てたまま、
まだ微かに震えている手で、くしゃくしゃの紙切れをポケットへ滑り込ませた。

(……誰にも見られてない。そう、信じたい)

そう思って、落とした皿を拾い上げる。
私服の袖口が少しだけ擦れて、指先の熱が薄れる。

けれど、どこか落ち着かない。
あの男が立ち去ってからも、背後に漂っていた“視線の気配”。


(……気のせい、じゃない)


でも振り返っても、誰もいなかった。
廊下には私の足音と、静寂だけが漂っている。

それでも私は、何もなかったように部屋へ戻った。
ゆっくりと扉を閉めて、鍵をかける。


閉じ込められたような静寂の中で、私は手を洗った。
こぼれた汁と、皿の跡と、荼毘の匂いを落とすように。

上着を、ハンガーに掛けたまま、
ため息を一つこぼした――そのとき。


――コン、コン。


ノックが響いた。

一瞬、鼓動が跳ねる。


『……はい』


「オーバーホール、呼んでいる。 ついてこい」

クロノの声だった。
相変わらず、無機質で、温度のない声。


部屋の外に、壊理ちゃんの気配はない。
この時間、この場所で、“彼”が私を呼ぶ理由など、ひとつしかなかった。


『……わかりました』

ポケットに手を入れて、紙切れをもう一度、握り直す。

温度は……もうなかった。
ただただ、くしゃくしゃに折れたままの、薄い紙。

私は、そっと息を吸って、ドアを開けた。
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