第16章 監視された想い
指が、かすかに震えた。
画面の中央に表示された、その一文。
【お前の“お姫様”は、元気か?】
……たったそれだけ。
たった一行なのに。
その言葉の奥に潜むものが、胸を貫いた。
誰よりも今、
“彼女”の近くにいるのは、間違いなく──コイツだった。
目の奥が、熱くなる。
腹の底が煮え立つように疼いた。
だけど、怒りよりも先にあったのは……恐怖だった。
本当に、無事なのか?
今、どこで、誰と……?
気づいたときには、もう、
発信ボタンを押していた。
ツー……ツー……ツー……
無機質な呼び出し音が、耳に響く。
頼む。出てくれ。
どこでもいい、何しててもいい、
声を……あの声を、聞かせてくれ。
──『おかけになった電話は──』
切り裂かれるような音声が、希望を遮った。
その直後。
『……あ、電話ありがとう。今は出られません。ごめんね』
『……えっと、またあとで、折り返すから』
留守電。
数日前と変わらない、そのままの声。
なのに、
今日ほど、その言葉が苦しく響いた夜はなかった。
“またあとで”
“折り返す”
──その約束が、今も本当に叶うものなのか。
わからない。怖い。苦しい。
携帯を胸に押し当てる。
ピアスが、夜風に揺れた。
彼女の笑顔も、指の感触も、今は何ひとつ触れられない。
なのに、留守電の声だけが
やけに優しくて、
やけに近くて、
それが何より──辛かった。
「……元気か、じゃねぇよ……」
小さく、かすれた声がこぼれる。
届かないその言葉も、夜空に溶けて消えた。