第16章 監視された想い
今夜も、ここに来ていた。
高台にある、古びた電波塔。
街の灯りを見下ろすこの場所だけが、
今も“彼女”と繋がっているような気がしていた。
インターンが始まってから、もう数日が経つ。
現場と任務で時間が削れても、
夜だけは、どうしてもここに足が向く。
気づけば、毎晩のように──
この場所で、同じ空を見上げている。
彼女が隣にいないことに、
身体は慣れても、心が慣れることはなかった。
声を思い出す。
笑った顔も、怒った顔も、泣きそうになってた横顔も──
ここにくるたび、鮮やかに蘇ってくる。
ポケットの中には、ずっと携帯。
左耳には、あいつとおそろいのピアス。
何も届かないとわかっていても、
何も返ってこないとわかっていても。
それでも、こうして立ち止まってしまう。
「……ほんと、どうしようもねぇな俺」
ひとりごとの声すら、空へ消えていった。
携帯を取り出す。
指が覚えてしまった動きで、画面を開く。
いつもと変わらない通知。
変わらない静けさ。
──それだけが、
“彼女が今も無事だ”って信じるための、最後の拠り所だった。
だけど今夜は──違った。
──通知1件。
胸の奥が跳ねる。
咄嗟に画面を見る。
数日ぶりの通知。
“まさか”なんて、思いたくないのに。
でも指が、震えそうになるのを止められなかった。
──送信者:荼毘
瞬間、すべての音が遠のいた。
風の音も、街のざわめきも、鼓動の音すら。
ただその名前だけが、
この胸に、異物のように重く沈んでいく。
「……なんで……お前なんだよ……」
低く、かすれた声が喉から漏れた。
手のひらが、じわりと熱くなる。
握りしめた携帯の画面は、ただ冷たく光っていた。