第16章 監視された想い
翌日。朝を迎えても、胸のざわつきは何一つ消えなかった。
いつも通りの笑顔で、
いつも通りの言葉を並べて。
仕事をこなすだけの俺に、誰も違和感なんて抱かない。
でも、そんなもん──どうでもよかった。
気づけば、指が動いていた。
情報局のアクセス端末。
公安のサーバーには、ヒーローインターンに関するデータが格納されている。
“彼女”の名前を打ち込む。
──一致なし。
「……は?」
小さく、呟いた声が、無機質な画面に跳ね返った。
ありえない。
ヒーロー科の生徒なら、必ずインターン記録が存在するはず。
現場登録も、事務所コードも、すべてログに残る。
それなのに──
彼女の名前だけが、どこにもない。
不審に思って、他のルートを使う。
信頼できる個人ルート、現場監視ネット、衛星画像。
ありとあらゆる角度から“痕跡”を追った。
それでも。
どこにもいなかった。
「……隠してる……」
漏れた声が、喉で苦く渦巻いた。
誰が。
何のために。
──公安だ。
それしか考えられない。
荼毘からのメッセージ。
“元気か”なんて、あいつが言う言葉じゃない。
言わされたか、見せられたか、あるいは──
あいつの近くに、“いた”。
それだけで十分だった。
彼女が今、安全な場所にいるはずがない。
なのに、俺には何も知らされていない。
“来させなかった”のは俺だ。
でも“行かせた”のは、誰だ──?
拳が、ゆっくりと机の上で震えた。
「……ふざけんなよ」
唇が、冷たく笑った。
公安が何を企んでるのかなんて、まだわからない。
でも、“大切なもの”を勝手に使われたことだけは、
もう我慢できなかった。
どこにいるんだ。
無事でいるのか。
それとも、
誰かの“手の中”にいるのか──
知ってしまった以上、止まれない。
たとえそれが、
スパイという立場を脅かすことになったとしても。
──守りたいと思った。
本気で、そう思ったんだ。
ならもう、後戻りなんかできない。