第5章 交わる唇、揺れる想い
ソファに座ったまま、轟くんと過ごすこの静かな時間。
さっきからずっと、雨は優しく降り続いていた。
耳に入ってくるのは、窓を叩く音と、遠くの車の走る音。
それから、となりに座る彼の静かな息づかい。
(……なんか、落ち着くなぁ)
ほんのり甘いミルクティーの香りが、まだ空気の中に残っていて、
心までじんわりあたためられていく。
気づけば、私はカップを両手で包んだまま、ふうっとため息を吐いていた。
それは、少しずつほどけていくような、心地よい疲れ。
(……なんか、急に眠くなってきたかも)
まぶたの奥がじわじわと熱を帯びて、視界がゆるくにじむ。
隣の気配を確かめるように、ちらっと目を向けると──
轟くんは窓の外を見ていた。どこか物思いに耽るような顔で。
(……大丈夫、少しだけ……目を閉じるだけ……)
意識が、ぽつりぽつりとほどけていく。
背中にソファのあたたかさ。膝の上には薄いブランケット。
そのまま、私はそっと身を預けるように、ソファに横になった。
『……ふふ、ありがとね……轟くん』
それが、寝落ちる寸前の、かすれた声だった。
そしてすぐに、深い眠りが私を包み込んでいった。
雨の音が、子守唄みたいに優しくて。
心に触れる人が、隣にいてくれる夜だったから――
今日は、夢もやさしい気がした。