第2章 翅(はね)の記
家までの帰り道は、
いつもよりずっと、長く感じた。
ちゃんと足は地面を歩いてるのに、
どこかふわふわしていて、
頭の中もぐるぐる回ってる。
『飛んだし、落としたし……でも、治ったし……?』
——なにがどうなったのか、よくわからない。
でも、確かに、何かすごく変なことが起きた。
⸻
玄関を開けると、お母さんのごはんの匂いがした。
お父さんの「ただいま〜」って声も、いつも通り。
なのに——
胸の奥がざわざわして、落ち着かなくて、
わたしはまっすぐ二人のもとへ歩いていった。
『あのね、今日……公園でね……』
話し始めた途端、涙がこみあげてきて、
両手をぎゅっと握りしめて、
気持ちを吐き出すように言った。
『ちいさい男の子がいて……いっしょに飛んでたの。
でも、手がすべっちゃって……落ちちゃって……!』
お母さんが目を見開いて、しゃがみこんで、
まっすぐわたしの顔を見つめる。
『その子、怪我したの?』
こくん、と頷いた瞬間、
ふたりの顔からふっと表情が消えた。
だけど、わたしは止まらずに続けた。
『すごく痛そうで……!わたし、こわくて、怒られるのもこわくて……!
でも、なおってほしいって、いっぱい思ったの……!』
指先を見つめながら、そっと声を落とす。
『……そしたらね、手が光ったの。
で、その子の足、いつのまにか治ってたの』
⸻
部屋の空気が、一気に止まったような気がした。
一秒、二秒、三秒——
その静けさは、胸の奥が苦しくなるくらい長く感じた。
やがて、お父さんとお母さんが目を合わせた。
そのとき——
ふたりの目から、すうっと色が消えたように見えた。
お父さんはきゅっと唇を引き結び、
お母さんは胸のあたりを押さえて、ほんの少しだけ震えている。
その様子がこわくて、不安で、
わたしはそっと、声を絞り出した。
『……ごめんなさい。わたし、へんなこと、しちゃった……?』