第16章 監視された想い
ホークスside
今日はインターンの初日。
だけど、玄関を開けて入ってきたのは──ひとり。
「よ、常闇くん。ま、来てくれて助かったよ」
軽く手を挙げて迎える。
この時点で、全部予定通りだった。
“彼女”を呼ばないことも。
……予定通りだった、はずなんだ。
「……星野は、呼ばないんですか?」
そう言った常闇の目は鋭かった。
そりゃ、気づくよな。職場体験は二人だったし。
けど、俺は笑ってごまかす。
「いや〜他の任務も詰まっててさ。
手が回らないんだよね、今は」
嘘じゃない。
けど、全部は言ってない。
「だから、常闇くん一人にしっかり来てもらって、ほんと助かる」
「……そうですか」
それ以上、彼は何も言わなかった。
さすが真面目な男。
詮索も、無理な踏み込みもない。
けど俺は、言葉とは別に──気になっていたことがあった。
……彼女のことだ。
あの日の電話。
「今回は呼べない」って、言ったあの時から──
ろくに連絡がついていない。
“生きてる”とは思ってる。
けど、なんていうか……感覚が遠すぎる。
繋がってるはずの線が、どこかでぷつんと切れたような。
そんな気がしてた。
「なあ、……彼女、どっかインターン行ったのかな」
俺の口から、勝手に言葉が漏れた。
横目で常闇を見る。
彼は少しだけ間を置いてから、首を傾けた。
「詳しくは知りません。……ただ、昨日も今日も、学校では見かけませんでした」
その一言が、胸に重く落ちた。
そうか、学校にもいないのか。
となると──今、彼女がどこにいるのか、俺はまったく知らないってことになる。
……守るために、離したのに。
どこにいる?
誰といる?
無事か?
苦しんでないか?
泣いてないか?
……ひとりじゃないか?
浮かんできた疑問の数に、息が詰まりそうになった。
「そう、なんだ……」
精一杯軽く言ったつもりだったけど、声は少し掠れていた。
常闇は気づいていないようだった。
でも、自分だけはごまかせなかった。
“守れてる”と思ってた。
けど、今の俺は──彼女の居場所すら知らない。
本当にこれでよかったのか?
問いは、答えを返さないまま、胸の底に沈んでいった。