第15章 忍び寄る影
冷えた夜風がコンクリートを撫でていく。
倉庫街の奥、灯りもまばらなその一角に、治崎率いる一団は静かに現れた。
私もその列の中に立つ。
フードを深くかぶり、顔を伏せたまま。
(……分かってる。あの人たちが来る。あの夜を、私は忘れてない)
治崎は一言も発さず、手袋を外すこともなく前を見据えている。
その隣を歩く私は、喉の奥に張り詰めた氷のような緊張を抱えながら、ゆっくりと足を止めた。
そして。
「遅ぇんだよ、オーバーホール。」
ざらついた声が風に乗る。
倉庫の影から現れたのは、7人の影。
死柄木弔がゆっくり歩み出る。
その後ろに並ぶのは──あの夜と同じ顔。
私の全身から、一瞬にして血の気が引いた。
荼毘──
あの、冷たい青い炎と、喉に焼きついた声を持つ男。
けれど次の瞬間──
トガが、こちらに視線をやる。
獣のように目を細めて、瞬きもせずに私を見た。
「……ねぇねぇ、あれって、あの時の女の子じゃない?」
トゥワイスが首を傾げながら、私を指差す。
「おいおい、嘘だろ……こいつ……」
Mr.コンプレスが仮面の奥で目を細める。
スピナーが一歩前に出て、じっと私を見つめる。
「おい、死柄木……あれ、連れ戻されたんじゃなかったの?」
「違ぇ……あれ……“戻ってきた”のか……?」
マグネの表情が、一瞬で鋭くなる。
その言葉に、死柄木の目が細くなる。
荼毘だけが、まるで凍ったように動かない。
じっと私の方だけを見ていた。
無言のまま、私は顔を上げた。
そして、ゆっくりとフードを外す。
「やっぱり……」
トガが唇を舐めるように笑う。
「ねぇ、また会えるなんて……すっごく嬉しいよぉ♡」
その言葉に、死柄木が舌打ちをする。
「なんでこいつがここにいる。どういうつもりだ、オーバーホール。」
治崎は無言のまま、前に出る。
「交渉の場だ。ガキの話なら後にしろ。」
その瞬間、ピリ、と空気が張り詰める。
けれど私は、一歩も退かない。
“彼らに見られている”──あの時と同じ状況でも、もう、私は壊されない。
視線がぶつかる。
特に、荼毘の視線だけは、皮膚を焼くように重かった。
(私はもう、あの時の私じゃない)
――胸の奥の装置が脈打つ。
沈黙の中で、冷たい風が吹き抜けた。
――次に動くのは、彼らか、それとも――。