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【ヒロアカ】re:Hero

第15章 忍び寄る影


壊理ちゃんの髪をとかしながら、そっと指を動かす。
彼女の白銀の髪はやわらかくて、すぐに絡まってしまうけれど、
優しく梳かせば、少しずつおとなしく整っていく。

『……痛くない?』

「うん……だいじょうぶ。」

壊理ちゃんは小さな声でそう答えて、
鏡の向こうでじっと自分の髪を見つめていた。

静かな時間だった。
……でも、その静けさの中に、時折、わずかな“引っかかり”がある。

彼女の袖の奥に隠されていた包帯、
部屋の奥にある、使用済みの注射器を捨てた金属製の箱。

普通の“世話”とは、少し違う。

『……ねえ、壊理ちゃん。』

私の声に、彼女が小さく振り向いた。
鏡越しじゃなく、真っ直ぐ私を見るその目は、何も言っていないようで、何かを隠しているようだった。

『最近、……どこか痛かったり、つらかったり、してない?』

一瞬、彼女の肩がぴくりと動く。
でもすぐに、かぶりを振った。

「なにも……ないよ。」

でも、声がかすかに震えていた。
私はそれを、何も言わずに受け止めるしかなかった。

しばらく髪を梳かしていると、壊理ちゃんがぽつりと、誰に許されたわけでもないように話し始めた。

「……からだの中を、調べるの。ときどき。」

『……調べる……?』

「“おくすり”をつくるため、って。……私の“なにか”が、いるんだって。」

息を呑んだ。
彼女の言葉は幼くて、それでも真実だけを含んでいた。

“何か”を抽出されている。
彼女の体の一部を使って、何かを――

頭の中で、断片がつながっていく。
壊理ちゃんの個性――“巻き戻す”力。
公安の資料の中にあった、個性を“消す”薬。

まさか、それが――
こんな小さな子から、作られているなんて。

『……怖くないの?』

彼女はしばらく黙って、それから、ふるふると首を横に振った。

「……怖いけど、逃げるの、もっ……と、怖い。」

その言葉に、私は胸をぎゅっと掴まれた。

『……逃げなくていいよ。私が、そばにいるから。』

そう言うと、ほんの少しだけ、私の袖を掴む。

「……ほんとに?」

『……うん、約束。』

その小さな手を、私は静かに握り返す。

“想願”があるなら、私はこの子の“願い”を叶えたい。
ひとつでも、悲しみのない明日を。
たとえそれが、誰かの計画を壊すことになっても。

心の奥で、小さな決意が静かに灯った。
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