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【ヒロアカ】re:Hero

第15章 忍び寄る影


朝の空気は重たくて、昨日よりもいっそう冷えて感じた。
薄暗い廊下を歩く足音が、自分のものに思えないくらいに遠い。

『……ここ……?』

案内もなく、“勘”だけで歩いた先。
ふと感じた気配に、私は立ち止まった。

開かれた扉の隙間から覗いたその部屋は、薬品の匂いと淡い光に包まれていた。
その中央、小さな背中がポツンと佇んでいる。

『……女の子……?』

淡い銀髪。細い肩。
――壊理ちゃん。

資料では見た。けど、目の前にいる彼女は、
“対象”とか“個性”なんて言葉では説明できないくらい、
ただ、ひとりの子どもだった。

白衣を羽織った誰かが、無造作に彼女の腕を取ろうとする。
その瞬間、思わず足が動いた。

『待って』

声が出ていた。
意識するより先に。制止のような、願いのような。

白衣の男がギョッとこちらを見て、眉をひそめる。

「……あんた、昨日来たやつか。ここは立ち入り許可が――」

『任務で通された。壊理ちゃんの状態、見させてもらってもいい?』

冷静を装って言ったけれど、足の震えは止まらなかった。

壊理ちゃんは、私を見ていた。
怯えるような、でも、何かを探るような、そんな瞳で。

「……」

白衣はめんどくさそうに視線をそらして出ていく。

静かになった部屋に、私と彼女だけが残された。

私はゆっくりとしゃがんで、目線を合わせる。
怖がらせないように、声を落とす。

『……こんにちは。壊理ちゃん、だよね。』

彼女は、小さく頷いた。
その動作に、胸が痛むほどの重さがあった。

『ごめんね。知らない人がいきなり来て、びっくりしたよね。』

壊理ちゃんは少しだけ首を傾げたあと、ぽつりと呟くように口を開いた。

「……また、実験するの……?」

その言葉に、背中を殴られたような衝撃が走る。

違う、って言いたかった。
でも、“私はヒーローじゃない”って、あの瞬間の言葉が喉を塞いだ。

『……来ただけ。会いに来ただけ。』

本当は、何もできないかもしれない。
でも、会いに来た。それだけは確かだった。

壊理ちゃんの瞳に、ほんの一瞬だけ揺らぎが灯る。
小さな足が、そっと一歩、こちらに近づいた。

『……大丈夫。私はここにいるよ。』

その言葉だけが、今の私にできる全てだった。
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