第15章 忍び寄る影
想花side
何の音もない部屋の中で、倒れた人の気配だけがじわじわと広がっていく。
私の視界の中、男たちは誰一人として動かない。
力を入れたわけじゃない。
戦ったつもりもなかった。
ただ、“眠って”ほしいと願っただけ。
それだけで、身体が反応した。
そう“在れ”と意志を持った瞬間、空間がそっと従った。
私は動かない。
肩も揺らさず、息も荒げず、ただ静かに立っている。
治崎廻の視線が、じっと私に注がれていた。
動く気配も、警戒もない。
でもその目の奥には、明確な“疑念”と“好奇”が揺れていた。
彼は何も言わない。
だから私も、言葉を選ばなかった。
けれど──
私は、ほんの少しだけ首をかしげてみせる。
声も出さず、感情も浮かべず。
ただ、ごく自然な呼吸の中で、静かに。
『……まだ……なにか、見たい?』
目の奥だけで、問いかけるように。
静かに、柔らかく。
私の中にあるのは怒りじゃない。反抗でもない。
ただ、“ここに立つ理由”と、“譲れない意志”だけ。
この場所がどれだけ冷たくても。
この人がどれだけ危険でも。
―――"大切な人を守るために"。
私の中にある“願い”は、きっとまだ、止まっていない。
一歩も引かずに、視線を逸らさない。
治崎廻の顔を、私は正面から見つめていた。