第15章 忍び寄る影
コンクリートの床に足が触れているはずなのに、感覚が宙に浮いたように遠い。
視線の先、治崎廻が腕を組んだまま、こちらを見下ろしている。
その圧に呼吸が浅くなるのを感じたけれど──
逃げる気も、屈する気もなかった。
ゆっくりと瞼を閉じる。
(…………お願い)
この場で、証明する。
私が、“想い”を力にする存在であるということを。
目を開けた瞬間だった。
地下室に満ちていた冷たい空気が、ゆっくりと軋んだ。
誰かが息を呑んだような気配。
足元で、ザラついたコンクリートが静かに音を立てる。
模様が浮かび上がる。
焦げ茶の木目のように、柔らかく、温かく──
床の質感が、音もなく変わり始めた。
鉄の天井を伝っていた水滴の音が止む。
代わりに、遠くで風鈴のような澄んだ響きが鳴った。
「……空間ごと、変えた……?」
誰かの呟きが、闇の中に溶けた。
壁の色が淡くにじみ、苔むした石畳のような風合いを帯びてゆく。
天井に小さな明かりが灯り、まるで日差しのように床を照らした。
空気の匂いさえ、乾いたコンクリの冷気から、懐かしい土と陽だまりの香りに変わっていく。
まるで、現実そのものが“私の想い”に呼応して、輪郭を変えているかのように──
治崎廻の目が、確かに揺れた。
けれど私は、何も言わない。
ただ視線を合わせたまま、問いかけるように首を傾げた。
──「もっと見たい?」とでも言うように。