第15章 忍び寄る影
街に出ると、冷たい風が頬をそっと撫でた。
いつも身に纏うコスチュームが、今日は妙に重く感じる。
胸の奥に広がる不安。
呼吸を整えても、その重みは消えなかった。
周りのざわめきが、まるで私を狙う目線のように感じられて、ひとりぼっちの迷路に迷い込んだみたいだった。
『大丈夫、きっと大丈夫。』
何度もそう唱えるけど、声は震え、心はまだ揺れている。
人混みの中、小さな叫び声が聞こえた。
迷子の子どもを見つけて、そっと手を握る。
その瞬間だけ、少しだけ優しい世界に触れた気がした。
けれど、すぐに背後から冷たい気配が忍び寄る。
何度も振り返り、息をひそめながらも、それは逃げられない現実だと知っていた。
「やっと見つけたぜ。」
背筋が凍るような低い声が耳元で響く。
振り返る間もなく、強い腕が肩を掴んだ。
逃げようとしても、体が震えて動けない。
その暗い瞳には、容赦のない決意だけが映っていた。
『……っ……』
声にならない叫びが喉に詰まり、涙が熱くこみあげる。
でも、今は耐えるしかなかった。
男は歪んだ笑みを浮かべて、仲間を呼び寄せる。
足音が近づき、不気味な影が周りを包んだ。
「大人しくしとけよ。黙って着いてくれば、痛い目には合わせねぇからな。」
極道の冷酷な空気が辺りを満たし、胸がぎゅっと締めつけられた。
逃げられない現実の中でも、胸の奥には小さな炎が燃えている。
震える手を握りしめ、覚悟を決めた。