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【ヒロアカ】re:Hero

第15章 忍び寄る影


無機質な会議室の空気が、息をするたびに冷たく肺を刺す。
机の向こうの男は笑みを浮かべているのに、声は氷のように冷たいままだった。

「君の“想願”――その個性を、今回は大いに利用させてもらう。」

指先が机の端をぎゅっと掴む。
鼓動が嫌な音を立てて跳ねるのが、自分でもわかる。

『……どういう……意味ですか。』

男はおかしそうに片眉をあげて、小さく笑った。

「君が“狙われる”状況を、こちらで作り出す。
とある組織がある――表では見えないが、裏で薬物や武器を動かす古い血の一派だ。
そこに、君の“想願”が役立つという噂を我々が流す。」

背筋を冷たい汗が伝う。
誰が、どこで、私を探すの――?

「彼らは君を手に入れたいと思うだろう。
ヴィラン連合も動くかもしれないが、先にその組織に保護される形を取る。
“捕まる”のではなく“引き込まれる”。……君を“差し出す”んだ。」

机の下で手が震えた。
『……差し出す……? 私を……?』

「安心しろとは言わない。だが、君の“想願”は監視にも逃走にも使える。
誰も気づかれずに情報を抜き、必要なら逃げることもできる。」

声だけは優しさを装っているのに、言葉は鎖だ。
鎖骨の奥の装置が、またひとつ私を縛った。

『……それで……みんなを……守れるなら……』

自分の声が思ったよりも静かで、胸の奥がきゅっと苦しくなる。
どこかで啓悟の顔が浮かんだ。
あの笑った目が、あの声が――こんな私を知ったら、どんな顔をするだろう。

「仮の事務所を用意する。君は学校には戻れない。
“インターン”という形でそこに滞在してもらう。」

『……わかりました……』

背筋を伸ばすだけで、喉の奥に詰まる声が滲んだ。
男は静かに頷き、書類を閉じる。

「君の素直さにはいつも感謝しているよ。
期待している。」

机の奥で、男がゆっくりと笑った。
私は小さく息を吐くしかなかった。
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