第15章 忍び寄る影
重く閉ざされた会議室の扉が、静かに音を立てて開いた。
その瞬間、冷たい空気が一気に押し寄せるようで、心臓の鼓動が大きく鳴り響く。
足音が一歩ずつ近づいてくる。
背筋がぴんと伸び、全身の感覚が研ぎ澄まされる。
「遅れてすまない。」
淡々とした低い声が、無機質な部屋の空気を震わせる。
振り返ることもできず、ただその声だけが胸に深く響いた。
男が無表情のまま書類を広げる。
冷たい瞳が、まるですべてを見透かすかのようにこちらを捉える。
「君の個性“想願”は、我々にとって非常に重要だ。」
言葉は淡々としているけれど、その重みはずっしりと心にのしかかる。
「君には極秘の任務を任せる。学校へは通えない。だから仮の事務所にて、インターンという形で活動を行ってもらう。」
その言葉に、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
『学校に……通えない……?』
誰にも言えない疑問が、喉の奥に突き刺さる。
男はさらに書類をめくりながら続ける。
「この任務は、君の安全のため、そして君を狙う者たちへの対策だ。だが、君はこれまで以上に戦わなければならない。逃げ場はない。」
部屋の冷え切った空気が、一層重たく感じられ、まるで肺の奥に冷たい氷が張り付いたようだった。
頭の中はぐるぐると、これからのこと、啓悟のこと、不安が波のように押し寄せては引いていく。
(でも……私は、守りたい人がいる。だから、逃げられない。)
声にならない決意が胸の奥で燃え始める。
胸の中でざわつく不安は消えないまま、震える手で書類に視線を落とす。
言葉にならない重圧がのしかかり、息を呑む。
「理解したか?」
男の問いかけに、ぎこちなく頷く。
決してすべてを飲み込めたわけじゃない。
ただ、この場から逃げられない現実だけははっきりとしていた。
これから何が待っているのか、何をしなければならないのか。
わからないことだらけで、胸は締めつけられた。
けれど、何も知らぬまま歩き出さなければならない。
不安に震えながらも、背筋を伸ばすしかない。
部屋の冷たい空気が、これからの試練を静かに告げていた。。