第15章 忍び寄る影
部屋のカーテンを閉め切り、冷たい空気がじわりと肌を包む。
額を机に伏せて、心のざわつきを押し殺すように息を吐いた。
『……昨日の電話から、何も変わらないのに。』
啓悟に会えないことの寂しさが胸の奥にぽっかり穴を空けている。
触れられない距離に、言葉にならない不安が押し寄せてくる。
視線は窓の外へと泳ぐけれど、ぼんやり霞む街の灯りが涙のように揺れて見えた。
何度も名前を呼びたいと思うのに、声にならず、ただ胸を締め付けられるだけ。
そんな時、静寂を破るようにスマホが震えた。
見知らぬ番号に震える指で通話ボタンを押す。
「こちら公安委員会です。重要な任務の通達があります。
詳しい話は本日の放課後に、直接会ってお伝えします。
学校の後、指定された会議室に来てください。」
知らない声。無機質で冷たい。
けれど、その言葉は重くのしかかり、心を凍らせた。
わからないことだらけの任務。
けれど逃げられない運命が、肩を押す。
一日中、教室の空気が遠く感じた。
時計の針の音だけが、はっきりと耳に響く。
胸の奥で小さく震えるのは、恐怖か、それとも覚悟か。
授業が終わり、校舎を出ると夕暮れの空が深く染まっていた。
ゆっくりと、約束の場所へと足を運ぶ。
公安の男たちが待つ会議室。
知らない世界の入り口。
ドアを開ける手が震えた。
中には誰もいない。けれど空気が重く、息苦しかった。
目の前の世界が、確実に変わろうとしている。
『……私は、もう逃げられない。』
胸が締め付けられ、涙がこぼれそうになるのを必死で押さえ込んだ。