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【ヒロアカ】re:Hero

第15章 忍び寄る影


机の上の書類を拾い上げて、軽く目を通すフリをする。
頭の奥じゃ、もう別のことばっか考えてるくせに。

ヴィラン連合に潜入――
表向きはヒーローとして活動しつつ、裏で情報を引っ掻き回す。
ま、二重生活なんて、俺にはいつものことだ。

けど――

“あいつ”をどうする。

頭の奥で、さっきからずっとひっかかってる。
この任務が始まったら、今までみたいに簡単に呼べない。
俺の事務所にヒーローインターンとして置くつもりだったのに。
守る意味も、近くに置く理由も、全部潰されちまった。

潜入中にちょっとでも繋がりが漏れりゃ、真っ先に狙われるのは――

「……クソが。」

誰にも聞こえない声で吐き捨てる。
公安の二人はもう書類の整理に戻って、俺の独り言なんざ気にもしない。

ドアに手をかけて、深く息を吐く。
やれる。
絶対にやる。
誰にも渡さない。
傷一つ付けさせない。

ドアを開けた瞬間、外の空気がやけに眩しくて、目の奥が痛む。

これから先、どこまで自分を誤魔化せるか――
この胸の奥に隠した弱さだけは、絶対に誰にも見せない。

ポケットの奥でスマホを握り直す。
画面の奥に浮かぶ名前だけが、唯一の心臓だ。

――大丈夫。
――全部、俺がやる。

誰にも触れさせない。
絶対に。

ドアが閉まる音が背中で遠く響いて、
俺は一歩、また一歩と、公安の影を背負って歩き出す。

外に出た瞬間、ビルの隙間から覗く空が目に入る。
街の明かりに押されて、星なんかほとんど見えやしないのに、
どこかであいつも、同じ空の下にいるんだって思うだけで
少しだけ息ができる。

ポケットのスマホを取り出す。
名前を呼びたくて、声にできなくて、
画面の奥で光る文字だけを、無意識に撫でてる。

――ほんと、可愛いんだって。
――何にも知らなくて、無防備で、
――だから俺が全部、背負えばいい。

冷たい風が頬を撫でた瞬間、笑うフリだけして
ポケットにスマホを押し込む。

「大丈夫。……大丈夫だから。」

誰に向けてでもなく呟いた言葉が、
夜の空気に溶けて消えた。

俺は背中を伸ばして、
あいつに見せる笑顔だけを思い浮かべながら、
夜の街に溶けていく。
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