第15章 忍び寄る影
ホークスside
公安本部の会議室は、外の湿った風なんか嘘みたいに冷房が効いてて、
背中に張り付くのはスーツじゃなく、張り詰めた空気だ。
椅子の背にだらしなく凭れたまま、ポケットの中でスマホを弄る。
誰に連絡するわけでもないのに、何度も握り直して、画面だけを見つめる。
――会いてぇな。
すぐに浮かぶのは、あいつの顔だ。
くしゃっと笑って、名前を呼んでくれる声。
思い出すだけで、ほんの少し、息が楽になるのが悔しい。
「……ホークス。」
ドアの向こうで低い声。
顔を上げると、公安の男が二人。
目が笑ってないのはいつも通りで、机に置かれた書類だけがやけに存在感を放ってる。
「新しい任務だ。」
白い紙に並んだ文字――
『敵<ヴィラン連合>』
――笑っちまう。
「……潜入っすか。」
「察しが早いのは助かる。」
ひとりが口元だけで笑う。
けどその声に血が通ってないのは知ってる。
「君の立場と信頼を考えれば、適任は君しかいない。
“ホークス”として、ヴィラン連合に潜り込め。」
俺は書類の端を爪で弾いてみせる。
「俺が入ったところで、連中がホイホイ信用するとは思えないけど?」
「分かっている。そのリスクを背負えるのも、君だけだ。」
机越しに目が合う。
あいつらの言葉はいつも正しい。
でも正しいだけで、優しさなんか一ミリもない。
「英雄でありながら、英雄にしか出来ない汚れ仕事をしてもらう。」
そんなの分かってんだよ。
ずっと前から。
「……了解。」
声が少し掠れた。
情けなくて、軽く咳払いして笑い直す。
「さすがに“考えさせてください”なんて言えない立場なんで。」
公安の目が細くなる。
「君には期待している。
内側から、必ず崩せ。」
「いつから。」
「すぐだ。」
一瞬だけ、視界の奥に浮かぶ。
柔らかい髪、名前を呼ぶ声、あの指先。
――ごめんな。
言葉には出来ない分、奥歯を噛む。
心の奥で小さく呟いて、
机の上の書類を指で叩く。
「……大丈夫、俺がやる。」
誰にも聞こえないように。
俺だけの声で。
笑え、ホークス。
俺がやる。
全部、俺が――