第15章 忍び寄る影
「……君の個性について、まず話をさせてくれ。」
机に指を組んだまま、男は視線を逸らさない。
その声には、どこか人を安心させる響きがあるのに、同時に冷たさが滲んでいた。
『……私の、個性……?』
無意識に自分の手を握りしめる。
何度も聞かれたことのある問いのはずなのに、今日の空気は全然違った。
「君の“想願”――願ったことを形にする。
これはただの生成能力ではない。」
低い声が机の木目を震わせるみたいに響いた。
「イレギュラーだ。
使い方ひとつで国を守りもするし、国を壊すこともできる。」
『……そんな、こと……』
声が震えると、男はわずかに目を細めた。
「今はまだ未熟だろう。だが“想い”の強さで拡張される個性……これはヴィランにとって、これ以上なく“欲しい力”だ。」
机の上に置かれたファイルが、わずかに私の方に押し出される。
視線を落とすと、ヴィラン連合、オール・フォー・ワン――
震えそうになった唇を必死に噛み締める。
「――君を守るために言っている。」
ゆっくりとした声が、まるで慰めのように聞こえた。
「君の“想い”が強いほど、誰かを守れる。
だが同時に、その“想い”が誰かに利用された時――」
男の瞳に私だけが映る。
「君の大切な人たちすら、君の手で壊すことになる。」
小さな音を立てて、椅子の背が軋んだ。
『……どう、すれば……』
「協力してくれればいい。」
一切の揺らぎがない声。
「私たち公安は、君の力を制御する方法を与える。
そして君には、必要な場面で必要な願いを叶えてもらう。」
『……それって……』
「ヒーローとして――国のために。」
口調は優しいのに、その言葉の奥にあるのは逃げ場のない檻。
「……君が誰を大切にしているのか、私たちは知っている。
君が、君の居場所を守りたいのなら……分かるだろう?」
胸の奥に、金色の瞳がちらつく。
ずっと守ってくれた、あの人の声が頭にこだまする。
――大丈夫だ、俺が全部守る。
その声を思い出した瞬間、心の奥に熱が灯るのに、目の前の空気が氷みたいに冷たい。
「怖がらなくていい。
君の“想い”を、君自身で守りたければ――私たちに預ければいい。」
静かな言葉が、重く机に落ちた。