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【ヒロアカ】re:Hero

第15章 忍び寄る影


放課後のチャイムが遠くに溶けて、教室の空気が一気に緩む。
誰かが椅子を引く音、誰かが笑い声をあげる音。
その全部が背中の向こうに遠ざかっていく。

『……先生?』

廊下に立っていた相澤先生が、低い声で私を呼んだ。
ほんのわずかに見える表情が、いつもより深く影を落としている気がして、胸がざわりと揺れた。

「星野、少し来い。」

短く言われただけで、拒む理由なんてなかった。
私は教科書を抱えたまま、黙って頷いて先生の背を追う。

普段は入らない職員棟の奥へ。
夕焼けがガラス窓に映って、長い廊下が赤く染まっていた。
薄いドアが一枚、わずかに開いていて、その奥から誰かの気配だけが滲む。

「ここで待て。」

そう言うと、相澤先生は小さくため息をついて、振り返らずに歩いて行った。
ドアがゆっくりと閉まる音が、やけに大きく耳に残った。

部屋の奥はほの暗くて、カーテンも半分閉じられていた。
照明がついていないせいで、夕陽の残光だけが机の縁を照らしている。

視線を慣らすと、その暗がりの中にスーツ姿の大人が一人、背筋を伸ばして座っていた。

黒いスーツ、無機質な雰囲気――
学校の先生とも、ヒーロー科の誰かとも違う。

『……あの……』

声をかけようとして、喉がひゅっと詰まった。
目が合った瞬間、空気が冷たくなる。
大人の瞳には、余計な感情が一切ないのが分かった。

「……初めましてだな、星野。」

ゆっくりと椅子に座り直す仕草だけがやけに丁寧で、音が静かに響く。
名前を呼ばれたのに、どこで知ったのかもわからない。

『……私に……何の用ですか……?』

声が自分のものじゃないみたいに震えた。
相澤先生がいない空間で、見知らぬ大人と向き合う。
それだけで手のひらがじんわり汗ばんでいく。

「怖がることはない。ただ少し……君にしか頼めない話があってね。」

口調は穏やかなのに、その奥に何かを隠しているみたいで。
私は小さく息を呑んで、教室に置いてきた誰かの声を思い出そうとした。
だけど、ここには誰もいない。

誰も助けてくれない。
私と、この人だけ。

静かに、深く、部屋の空気が締め付けてくる。
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