第15章 忍び寄る影
通形先輩の笑顔は、どこまでも太陽みたいだった。
だけど、その瞳の奥に宿る何かが、言葉の軽さを一瞬で裏切る。
「じゃあさ――良かったら俺と戦ってみない?」
教室の空気が凍ったみたいに静かになる。
相澤先生が腕を組んだまま、ため息をついて一言。
「やるなら外だ。教室壊されても困るからな。」
あっという間に場所を移して、1-Aの全員がグラウンドに立たされた。
焦凍は仮免受かってないからと自主見学。
「誰からでもいいよ~!かかっておいで!」
先輩の声に、飯田くんが真っ先に飛び出した。
その背に続いて、上鳴くん、切島くん、芦戸さん、みんな一斉に前へ。
だけど――
「消えた……!?」「どこ――」
一瞬で姿を消したかと思えば、背後からスコンと頭を撫で落とされる。
一人、また一人――地面に転がされるたびに、笑顔で「ナイスファイト!」って言われるから、逆に悔しい。
拳も個性も届かない。
透過の理不尽さを、誰も掴めない。
そして最後の一人が倒れかけたとき、相澤先生の声が飛んだ。
「星野。」
呼ばれた名前に、思わず息が詰まる。
倒れた友達を支えながら、通形先輩の前に立った。
『……お願いします!』
「お、来た来た! さっきの子だね!」
先輩の笑顔が、距離を詰める。
『……っ』
瞬間、視界から消えた気配を、空気の動きで追う。
足元の地面を歪ませて足場をずらす。
水で空気の湿りを感じて、動きを読む――
でも次の瞬間、後ろから肩をぽんっと叩かれた。
「わっ! 惜しい惜しい!」
背筋がぞくっと震える。
足元が崩れても、先輩はそれを踏み越えて笑うだけ。
何度も何度も挑んでも、そのたびに肩を叩かれて背を撫でられて――
「でも、すっごいなぁ。君だけだよ、みんなのとこ全部守ってんの。」
気づけば、自分の後ろに倒れたクラスメイトがいて、
私の作った地の壁が、みんなを守っていた。
「俺を止めるより、誰かを守るほうが得意なんだね。」
笑って、ぽんっと頭を撫でられる。
「君みたいな子がチームにいてくれたら、ヒーローは絶対に助かるんだ。」
通形先輩は、陽だまりみたいな声でそう言ってくれた。
遠くで、腕を組んだままの焦凍が、小さく眉を動かしているのが見えた。