第15章 忍び寄る影
前に立った金髪の先輩が、太陽みたいな笑顔でひらひらと手を振った。
「えーと!俺は通形ミリオ! 三年ヒーロー科!
みんなの先輩ってわけだな!」
名前を呟いた誰かの声に、教室の空気が小さく波立つ。
――雄英ビッグ3。
通形先輩は白い歯を見せて笑うと、教室をぐるりと見渡して楽しそうに親指を立てた。
「これからインターンでいろんなことを経験すると思うけど、怖がることはないよ!
俺たちだって、最初はみんなと同じだったんだからさ!」
笑顔だけじゃなく、声に乗った空気まで軽やかで。
それだけで張り詰めていた教室が少し和らぐのがわかった。
そして後ろに控える二人に目を向けると、優しく手招きする。
「ほら、次ー!」
呼ばれて、一歩前に出てきたのは黒髪の先輩だった。
制服の袖を指先でぎゅっと摘んだまま、前髪の奥からそっと視線を向ける。
「……あ……天喰……環……。」
掠れそうな声が、かえって教室に深く染み込む。
誰も動けない。息すら漏らせない。
その小さな声が誰よりも遠くまで届く気がした。
伏し目がちの睫毛の奥、怯えた獣みたいに光る瞳がわずかにこちらを掠める。
目が合った瞬間、すぐに逸らされてしまうのに、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
「…帰りたい……!」
言い終わると、環先輩は小さく肩をすぼめて俯いた。
その背を通形先輩が苦笑しながらぽんと叩くと、隣の波動先輩が息を吸い込む。
「はーいっ! 波動ねじれです! 三年ヒーロー科ー!」
弾ける声と一緒に、波動先輩が前に飛び出してくる。
髪が揺れて、教室の空気が一気に明るくなる。
「みんなとお話できるの楽しみにしてたんだよー!
いーっぱい質問しちゃうからよろしくねー!」
波動先輩は机に身を預けるようにして、好奇心いっぱいの瞳で覗き込んでくる。
「ねぇねぇ、あなたの個性って翼?それとも別の?
可愛いけど強いって本当?どっち?教えてー!」
『あ、えと……!』
追い詰められたみたいに小さくなった声が震えた瞬間、後ろから控えめな咳払いが響いた。
相澤先生が腕を組んだまま、静かに目で合図する。
波動先輩は「はーい!」と小さく舌を出し、ころんと笑顔を残して通形先輩の隣に戻っていった。
熱を帯びた空気の中に立つ三人の姿は、
ヒーローの“未来”が確かにここにあると誰にでもわかるほど、強くて眩しかった。
