第14章 仮免の向こう側【R18】
玄関を開けた瞬間、寮の中からいつもより賑やかな声が溢れてきた。
笑い声に混じって、テレビの音が妙に大きい。
『……ただいま……?』
靴を脱いでリビングを覗くと、ソファの前に集まった皆が、目を皿みたいにしてテレビにかじりついていた。
「想花!おかえりー!これヤバいんだけどさ!」
真っ先に振り向いた三奈ちゃんが、声を弾ませて手招きする。
画面に映っていたのは――青く揺れる水槽の前で、イルカを背景に笑い合うホークスと、
髪の短い、見慣れない女の子。
《話題のナンバー2ヒーロー、ホークス! 福岡で美女とデートか――!?》
「え!ホークスって彼女いたの!?」
「つーか誰だよこれ!どこの子だ?顔全然映ってねーけど!」
「ちょっと雰囲気やばくない?普通のファンじゃないよね絶対……!」
お茶子ちゃんも上鳴くんも、わーわー言いながらスマホを構えて、
それぞれ画面に映る女の子の後ろ姿を睨みつけてる。
『……あはは……』
曖昧に笑ってみせて、そっとポケットに忍ばせた指輪を親指でなぞる。
――知らないふり。誰も気づかない。
だって髪も目の色も、全部変えたんだから。
でも、ふと視線をずらすと、焦凍と勝己が黙ったまま、
私を見て、画面を見て、また私を見ていた。
焦凍の目がわずかに細まる。
勝己は小さく鼻で笑って、何も言わないくせに、その目だけが全部知ってるみたいに刺さってくる。
「……お前、どこ行ってた?」
小さく漏れた勝己の声に、心臓が跳ねる。
『ちょっと……買い物、だよ。』
嘘なんてつくのが下手すぎて、声が微かに揺れたのが自分でも分かる。
でも、言葉の代わりに、ポケットの中の指輪をそっと握りしめた。
――髪を切っても、色を変えても、
映らない場所で、ちゃんと結ばれてる。
『……ただいま。』
誰に聞かせるわけでもなく、小さく呟いた声は、
きっとあの人だけに届けばいい。