第14章 仮免の向こう側【R18】
博多駅のホームに並んで立つと、啓悟が私の小さなキャリーケースを片手で軽々と持ち上げた。
『……なんか、帰るの、寂しいね。』
思わずこぼれた声に、啓悟は肩を揺らして笑う。
「何言ってんの。ちゃんと送ってくから。」
人の多いホームのざわめきの中でも、隣にいるだけで落ち着くのがずるい。
新幹線の指定席、窓際に私を座らせて、啓悟はすぐ隣で小さくあくびを隠す。
『寝てていいよ?福岡戻るの大変でしょ。』
「んー……戻る前にお前、寮まで届けなきゃだろ?」
くすぐるみたいに指先で頬を突かれて、つい笑ってしまう。
あっという間の二日間だったのに、隣にいるだけで全部が満たされていた。
――――
東京に着く頃には、あの赤い指輪が指に触れるたびに胸が熱くなる。
改札を抜けたあとも啓悟は何も言わずに私の荷物を引いて歩いてくれる。
寮の前に着くと、まだ夕方なのに空気は夏の夜みたいに生ぬるい。
『……ありがとう。ちゃんと、送ってくれて。』
「そりゃそうだろ。まだ攫われると面倒だし。」
冗談みたいに笑ってるのに、視線だけは優しいのがずるい。
伸びてきた啓悟の手が、私の髪をそっと撫でて、額に落とされるキスが小さくてあたたかい。
「……ちゃんと戻ったら連絡しろよ。すぐ飛んでくから。」
『うん……飛んで来て。』
名残惜しさにもう一度だけ手を握ると、啓悟は小さく息を吐いて、笑った。
「じゃ、行ってくる。」
そう言って、背を向けた背中が、夜の空気を割って遠くの空へ――
赤い翼が音もなく羽ばたいていくのを、私はずっと見送っていた。