第14章 仮免の向こう側【R18】
朝の寮の廊下は、少しだけ冷たい空気が漂ってた。
ドアを開けた先で、相澤先生の低い声がすっと背筋を正す。
「星野、外出許可、二日間で通した。
福岡だろ、一日じゃ足りないだろうしな。
日曜の門限までには、きっちり戻れ。」
声を飲み込むみたいに、胸の奥がぎゅっと熱くなる。
『……ありがとうございます!ちゃんと戻ります!』
先生はいつもの無表情のまま、書類を手に廊下を歩き出す。
その背中が角を曲がりかけたとき、不意に立ち止まって振り返った。
「……それと、もう来てるぞ。あいつ。」
一拍遅れて、心臓がドクンと跳ねる。
『……え、もう……?!』
言葉より先に体が動いてた。
部屋に駆け戻って、ベッドに投げ出してたバッグをひっつかむ。
化粧水、充電器、替えの服――何もかも手当たり次第に詰め込んで、
浮かれた心臓がバクバク鳴る音が、胸の奥で暴れてる。
慌てて階段を駆け下りた先の玄関前で、
三奈ちゃんとお茶子ちゃんが、ちょうど向こうから手を振ってくる。
「なになにー?どっか行くのー?!」
「え、誰と誰と!?」
笑いながら問いかける声に、頬がゆるんで仕方なかった。
『……ひみつ!……でも、帰ったら話すから!』
ふたりの視線を背中に浴びたまま、靴ひもを結び直して飛び出す。
玄関を開けると、朝の日差しがちょっと眩しかった。
門の向こうで、羽根を揺らす影が、光に溶け込むみたいに立ってる。
風に髪がそよいで、私を見つけた途端、
あの人懐っこい笑顔が、少しだけ誇らしげに弧を描いた。
「おそーい。どんだけ待たせる気?」
あったかい声が、心臓の奥をそっと撫でていく。
バッグの持ち手を握りしめながら、自然と駆け足になった。