第14章 仮免の向こう側【R18】
試験会場を吹き抜ける風が、あの張り詰めた空気をどこか遠くへ連れていってくれるみたいだった。
真堂くんは少し息を整えるみたいに前髪をかき上げてから、私に視線を合わせる。
「……さっきは、助かったよ。あの時、動けなくなって……情けないところ見せたなって思ってたけど……」
言葉を選ぶみたいに、少しだけ目を伏せて笑った。
「それより……ずっと会ってみたかったんだよね。テレビの中の君じゃなくて、どんな人なのか。」
柔らかい声なのに、どこか真っ直ぐで嘘がないのがわかる。
『……私なんて、大したことしてないよ。』
思わず笑い返すと、真堂くんは少しだけ肩をすくめた。
「いや……充分だよ。実際に会ってみて思った。強いのに、ちゃんと誰かのために動けるんだなって。」
すぐ後ろで、小さく含み笑いが聞こえた。
振り返らなくてもわかる。三奈ちゃんだ。
お茶子ちゃんも、どこか遠くで「おおー……」って言ってる気がする。
『……え、えっと……』
頬が少し熱くなるのを誤魔化すみたいに視線を逸らしたら、真堂くんはスッとポケットからスマホを取り出した。
「……よかったらさ。これからも、ちょっとだけ話せると嬉しいなって。」
小さく笑うと、スマホを私の前に差し出してくる。
一瞬だけ迷って――でも、なんだか自然と私もスマホを取り出してた。
「ありがとう。」
目が合った瞬間の真堂くんの笑顔は、仮免の夕暮れに似合いすぎていて、何も言えなくなった。
『……うん。こちらこそ。』
「じゃあ……また、どこかで。」
ひらりと手を振って、真堂くんは人混みの向こうに溶けていく。
すぐ後ろで三奈ちゃんが、わざとらしく肘で小突いてきた。
「モテモテじゃーん、想花ちゃん!」
『ちょっ……ちがっ……!』
夕暮れの風が少しだけ冷たくて、でも、胸の奥はほんのり熱かった。