第14章 仮免の向こう側【R18】
二次試験が終わって、合格発表が映るモニターの前には静かな熱気が渦巻いていた。
夕暮れの風がテントの幕を揺らしていて、空はもう群青色に溶け始めている。
スクリーンの中に、自分の名前を見つけた瞬間、肩の奥に溜めていた息がようやく零れた。
『……あった……』
すぐ近くで三奈ちゃんと切島くんが小さく跳ねるように喜んでいる。
上鳴くんの「よっしゃあ!」って声が無駄に響いて、思わず笑いそうになる。
でもその笑いは、すぐに胸の奥で止まった。
焦凍の名前が――勝己の名前が、どこにもなかったから。
少し離れたところで、焦凍がスクリーンを黙って見つめている。
背筋は誰よりも真っ直ぐなのに、指先がほんの少しだけ揺れていた。
『……大丈夫……絶対、次は……』
声にならない言葉を、胸の奥で繰り返す。
そんな私に気づいたのか、焦凍がゆっくりと振り向いて、小さく息を吐いたように笑った。
その笑顔が、どこか泣きたくなるくらい優しくて、何も言えなくなる。
遠くで勝己の舌打ちが聞こえた。
切島くんが慌てて肩を掴んで何か言ってるけど、勝己はただ遠くを睨んだままだ。
『……次は、一緒に合格しようね……』
心の中でだけ、小さく願うように呟いた。
その時だった。
「……想花ちゃん!」
背後から聞こえた声に、心臓が小さく跳ねた。
振り返った先に立っていたのは、黒髪を揺らした、どこか余裕のある笑みを浮かべた――真堂くんだった。
「仮免、さすがだね。……ずっと探してた。」
真堂くんの穏やかな声が、夕暮れに溶けていく。
冷たい風が、ふっと前髪を揺らした。
『……真堂くん……』
名前を呼んだ自分の声が、少しだけ熱を帯びていた。