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【ヒロアカ】re:Hero

第14章 仮免の向こう側【R18】


崩れた壁の奥から吹き込む潮の匂いと、低く唸る獣の気配。
ギャングオルカの影がゆらりと揺れた瞬間、
人々の肩が小さく震えたのがわかった。

『……絶対に、ここは通さない』

静かに胸の奥で呟いて、私は両手を地面に当てる。
指先から広がる水の膜が、砕けた瓦礫を包み込みながら
地面の粒子を引き寄せて、ひとつの塊に変わっていく。
湿った大気が集まって、目の前に分厚い壁を築き上げた。

背後から、小さな吐息がいくつも重なって聞こえてくる。

「すごい……!」

「ほんとに……この子一人で……!」

揺れる声を背に、私は壁の奥に目を向けた。

真堂くんがいた。
振動の個性で、ギャングオルカとその部下の前に立ちはだかっている。
救助者に近づかせまいと、荒い呼吸で拳を握りしめていた。

『……真堂くん……』

瞬間、超音波の一撃が真堂くんの体をかすめた。
空気がぐらりと歪むほどの衝撃――
彼の膝が、地面に落ちる。

私は壁の力を片手に残したまま駆け寄って、
震える背中にそっと触れた。

『……無茶しないで……! ここは……私が――』

真堂くんの頬に手を添えると、唇がかすかに動く。

「……そっちにだけは……絶対に通させない、って……思ったんだ……」

少し笑って、意識が揺れるのを、私は両手で支えた。
胸の奥がじわりと熱くなる。

『……大丈夫。あなたの分も、私が守るから……』

光が滲んで、真堂くんの苦しそうな顔がゆっくりと和らぐ。
濁った血糊が、消えていく。

「……やっぱ……強いな……想花ちゃん……」

かすれた声が、風に混じって消えた。

私はそっと立ち上がると、再び両手を地面に置いて壁を補強する。
崩れそうな隙間を閉じて、また光を滲ませる。

遠くでは氷のきしむ音と、風がうなる音。
焦凍と夜嵐くんが、ぶつかり合う気配を遠くに感じた。

でも、ここは私が絶対に守る。

背中越しの救助者の温もりが、
私を何度でも奮い立たせてくれるから――。
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