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【ヒロアカ】re:Hero

第14章 仮免の向こう側【R18】


救助者を広場に集め終わるころには、
子どもも大人も、服も髪も、すっかり瓦礫と埃にまみれていた。
泣き声が小さく混じっているのに、
辺りの空気はどこか、息を潜めたように静かだった。

私は一歩だけ前に出て、
そっと手を広げる。

『……少しだけ、我慢してて。すぐに綺麗にするから。』

誰かの息が、かすかに震えた。

掌から広がる光が、
夜の風に乗って人々をそっと包んでいく。
赤く滲んだ袖も、
乾いた土埃も、
光の中でふわりとほどけて空気に溶けていく。

「……わ……」

「……全部……消えて……」

小さな声が光に紛れて漂う。
澄んだ瞳が、私をまっすぐ見つめて、
『ありがとう』と唇が震えた。

胸の奥があたたかくなる。
『……大丈夫。もう怖くないから……』

言葉を落とした瞬間だった。

遠くで、何かが軋んで割れる音がした。
振り向くと、崩れかけた壁がゆっくりと裂けていく。

埃と冷たい煙が空に溶けて、
白い隙間に黒い影が立つのが見えた。

空気が一気に張り詰めていく。
誰かの息が止まる音が、胸の奥に伝わってくる。

「……嘘……ヴィラン……?」

「まさか……ここで……」

さっきまで安堵に満ちていた声が、
今はかすかな恐怖で滲んでいた。

砕かれた壁の奥に、
黒光りする瞳と、濡れた牙が浮かび上がる。

威圧感が空気を押し潰すみたいに広がって、
さっきまで温かかった光の余韻が、
すっと遠ざかっていった。

『……ギャングオルカ……』

名前を飲み込むように呟いたとき、
胸の奥の熱が、ひんやりと冷たくなる。

遠くで、誰かの息を飲む音が微かに重なった。

夜の中で、鼓動だけが妙に大きく響いていた。
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