第14章 仮免の向こう側【R18】
焦凍の氷がギャングオルカの足元を一気に凍てつかせ、同時に迸る炎が吹き付けて動きを封じる。
夜嵐くんの突風がその隙を逃さずに押し込み、緑谷くんの拳が大きな咆哮を切り裂いた瞬間――
獣のような影が、ぐらりと大きく揺れて崩れ落ちた。
氷のかけらと焦げた空気が入り混じり、会場に静寂が戻る。
私は遠くから、その光景を見届けていた。
遅れて勝己が切島くん、上鳴くんと一緒に最後の救助者を引き連れてきた。
砂埃で真っ白な肩を貸して歩く切島くんの笑顔と、上鳴くんの軽口が場の張り詰めた空気を少し和らげる。
勝己は無言で、だけど誰よりもしっかりと周囲を睨みつけていた。
『……みんな、無事でよかった……』
胸の奥の硬く冷たいものが、すっとほどけていく。
その瞬間、頭上のスピーカーから試験官のアナウンスが響いた。
「これより通達する!
最後の救助者が避難エリアに到達したため――
ヒーロー仮免二次試験は、これをもって終了とする!」
会場に広がるのは歓声、安堵の溜息、泣き声、笑い声。
思い思いの声が混ざり合って、崩れかけた瓦礫の街が、ほんの少しだけ生き返ったように見えた。
私はゆっくりと深呼吸をする。
血の味が残る息を吐き出すと、まだ遠くで氷が溶ける音がした。
ふと気づけば、焦凍が隣に立っていて、私の方を見ていた。
まだ肩で息をしているのに、その瞳は静かで、どこか悔しそうで、それでも少し笑っていた。
「……おつかれ。」
『……おつかれさま。焦凍も……すごかったよ。』
彼は短く息を吐いて、唇の端を少しだけ上げた。
胸の奥で、まだ小さな焔みたいに熱いものが揺れている。
それはきっと、もっと強くなりたいって気持ち。
またここで、誰かの背中を追い越せるように――
私はそっと空を仰いだ。
雲の切れ間から、光が一筋だけ落ちていた。