第14章 仮免の向こう側【R18】
携帯を開くと、夜の静寂を切るみたいに相澤先生の低い声が響いた。
「……星野。」
『……はい……』
啓悟の体温がまだ背中に残っていて、声が少し震える。
「そろそろ戻れ。門限、破るなよ。」
『……はい……すぐ戻ります。』
短いくせに、絶対に逆らえない声。
啓悟と目が合って、小さく吹き出した。
通話を切って携帯を胸に押し当てると、啓悟がくしゃっと笑った。
「……さすがイレイザー。俺、いつ嫌われてもおかしくないな。」
『ふふ……』
でもその笑顔の奥に、ほんの少しの名残惜しさが滲んでるのがわかる。
私が立ち上がろうとすると、啓悟がそっと手首を掴んで引き寄せた。
「……なあ、想花。」
目が合う。
さっきまでの軽い笑顔と違って、瞳の奥だけが熱を残してた。
「……仮免、絶対受かれよ。」
『……うん。』
「受かったら――1日外出許可、取ってこい。」
『……えっ?』
「……そしたら……ちゃんと……な?」
言葉の続きは曖昧なのに、熱だけが全部伝わってくる。
『……うん……!』
啓悟が優しく笑って、私の髪をくしゃっと撫でた。
「いい子。」
◇ ◇ ◇
玄関に降りると、待っていた相澤先生の隣で啓悟が私の後ろをついてくる。
「すみません先生。ちょっと引き止めすぎちゃいました。」
相澤先生はため息混じりに、めんどくさそうに目を細めただけだった。
「……星野を巻き込むな。……さっさと帰れ。」
「はーい、了解でーす。」
軽く手を上げて、啓悟は私にだけ小さくウインクをくれた。
『……おやすみ、ホークス。』
「おやすみ、想花。」
夜風が、まだ少し啓悟の残り香を運んでくる。
胸が、ドクンと熱く鳴った。