第14章 仮免の向こう側【R18】
仮免試験を明日に控えた夜、
夕食を終えた談話室はほんのりお茶の香りで満たされていた。
三奈ちゃんが持ってきた紅茶のティーバッグを、
みんなで小さなマグに注いでくれている。
『……ふぅ……あったかい……』
手の中のマグカップが、さっきまで張り詰めていた胸の奥を
じんわり溶かしていく。
「星野ちゃん、緊張してるんちゃう?」
お茶子ちゃんが隣でクスクス笑いながら、
私のマグに角砂糖をもうひとつ放り込む。
『えっ、ちょっと!甘すぎるって!』
「甘いほうが疲れとれるって~!」
三奈ちゃんも笑って頷いてくれる。
「そーそー、明日くらい糖分摂っときなよ!
ね、ね、練習の成果、絶対大丈夫だから!」
『……うん、ありがと。』
女子だけの、ちょっとした秘密基地みたいなこの時間。
火照った指先をマグに沈めながら、
さっきの訓練のことを思い出す。
勝己の声。
あの背中。
あの言葉。
『……がんばろ……』
マグの中の紅茶に小さく呟いた瞬間、
談話室のドアがコツコツとノックされた。
振り返ると、ドアの向こうに相澤先生が立っていた。
「星野。」
呼ばれた瞬間、心臓がひとつ跳ねる。
「玄関に来客だ。……お前宛だ。」
『……えっ。』
三奈ちゃんとお茶子ちゃんが「誰?誰?」って目を丸くする。
でも私にはすぐにわかった。
こんな時間に、わざわざ来る人なんて。
こんなタイミングで、私に会いに来る人なんて。
『……行ってきます。』
マグをそっとテーブルに置いて、
小さく息を吐いて立ち上がった。
さっきまでじんわりしてた胸の奥が、
またドクドクと熱くなる。
相澤先生が少しだけ背中を押してくれた。
「……あまり長居させるなよ。」
『……はい。』
足音を忍ばせながら、玄関の灯りを目指す。
ドアの向こうで待ってるのは――
わかってるのに、心臓が止まらない。