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【ヒロアカ】re:Hero

第14章 仮免の向こう側【R18】


夕焼けが、校舎のガラスに滲んでる。
訓練で汗を流したあとの空気は、まだ少しだけ土の匂いがして心地いい。

みんなの笑い声が、寮の玄関のほうからふわふわ漂ってくる。
私は少し遅れて歩いてて、なんとなく足元の影を踏んでいた。

指先に残る熱と冷たさを感じながら、
今日の手応えを胸の奥でぐっと握りしめる。

その時、後ろから少し荒めの足音が近づいてきた。

「おい。」

呼ばれて振り向くと、勝己が制服の袖をポケットに突っ込んだまま、
少し不機嫌そうに立ってた。

目が合った瞬間、勝己はわざとらしく視線を逸らす。

『なに?どうしたの?』

「……お前。」

ぽつりと落とした声が、
いつもの爆音みたいな調子じゃなくて、
少しだけくぐもって低かった。

「……あのままじゃ終わんねぇだろうとは思ってたがな。」

『……え?』

「……ちゃんと仕上げてきやがったな」

口元だけちょっと意地悪そうに歪めて、
けど目は笑ってなくて、まっすぐ私の目を射抜いてくる。

『……うん。……なんとか、ね。』

返した声が思ったより小さくて、
勝己は少しだけ眉を動かした。

「……あんだけぶっ倒れて、
泣きそうなツラしてたのに……
しれっと戻ってきて、あんなもん見せやがって。」

声の端が少しだけ熱い。
たぶん怒ってるんじゃなくて、悔しがってるんだってすぐわかった。

『……へへ、ごめん。』

「……誰が許すっつった。」

呟くと、勝己は私の前までぐいっと歩いてきて、
目の前で立ち止まった。

制服の袖が私の腕に触れそうで、触れない距離。

「……でも、あれは、……良かった。」

一拍置いて、かすれた声でそう言った。

いつもの勝己の声じゃない、
静かなのに火花みたいに熱い声。

『……ありがとう。』

小さく笑ったら、勝己は目を逸らしたまま、
不意に私の肩を小突いてきた。

「……調子乗んなよ。次は俺が全部抜く。」

『……うん、負けないよ。』

勝己は舌打ちして、小さく鼻で笑った。

「……チッ。期待してんぞ。」

それだけ言って、
夕陽に溶けていくみたいに前を歩いていく。

背中越しに見える金色の髪が、
最後の光に少し揺れた。

胸の奥が、さっき空で燃えた熱よりも
ずっとあったかくなる。

『……頑張るよ、勝己。』

誰にも聞こえないくらいの声で、
その背中にだけ届けばいいと思った。
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