第5章 交わる唇、揺れる想い
入学してからの毎日は、まるで夢の中にいるみたいだった。
雄英高校での新しい生活。
朝が来るのが待ち遠しくて、制服に袖を通すたびに胸が高鳴る。
教室の窓から差し込む柔らかな陽の光が、私たちの机をやさしく包んでいた。
隣の席のお茶子ちゃんと三奈ちゃんが、にこにこしながら話しかけてくれる。
『ねぇ、放課後、よかったらうちに遊びに来ない?』
何気なくそう誘うと、お茶子ちゃんの目がぱぁっと輝いた。
「ええっ、ほんと!? 行きたい行きたいっ!」
「わたしも〜! 楽しそう!」と三奈ちゃんもすぐに頷いてくれる。
ちょっと照れながら「一人暮らしでさ……まだ慣れてなくて」と続けると、
ふたりとも、「じゃあなおさら行かなきゃね!」と笑ってくれた。
そんな穏やかなやりとりを――どうやら、誰かが聞いていたらしい。
「マジで!? 星野って一人暮らししてんのかよ!」
「すげぇ……それってつまり、おれらも遊びに行けるってこと!?」
突然背後から聞こえてきたのは、上鳴くんと峰田くんの声だった。
一瞬で教室中がざわめきに包まれる。
『ちょ、ちょっと!? 大声やめてってば……!』
頬が熱くなるのがわかったけど、それを誤魔化す暇もなく、ふたりはにやにやしながら盛り上がっていく。
「みんなも誘って、ファミレスとかどう?」
「それな〜! めっちゃ楽しそう!」
気づけば、他の子たちも口々に「行こうよ!」と声を上げ始めていて、
いつの間にか、放課後の予定が“みんなでファミレス”に変わっていた。
巻き込まれるように決まった約束だったけれど――
気づけば、私の胸の奥がじんわりあたたかくなっていた。
にぎやかで、ちょっと騒がしくて、でもとても優しい時間。
――こんな日が、これからも続けばいいのに。
そう思いながら、私は小さく息を吸って、笑顔で教科書を開いた。
次の授業のチャイムが、心地よく鳴り響いていた。