第14章 仮免の向こう側【R18】
昨日と同じグラウンドの匂い。
土の匂いと、誰かの汗の匂いと、ちょっと冷たい風が混ざってる。
昼休みのわちゃわちゃが嘘みたいに、空気がピンと張ってた。
必殺技の特訓、二日目。
みんなそれぞれにエクトプラズマ先生の分身と向き合って、何度も技を繰り返してる。
私も同じ。
誰も見てない隅っこで、昨日と同じ動きをひたすら繰り返す。
『……まだだな…』
手のひらに残った熱を息で冷ます。
思った通りにいかないと、時間だけが自分を置いていくみたいで怖くなる。
「星野!」
突然名前を呼ばれて、思わず振り返った。
尾白くんがこっちに駆けてきて、肩で息をしてる。
「悪い、ちょっといいか?
エクトプラズマ先生にさ、人と組んでやってみろって言われて…。」
『え?私でいいの?』
「お前の動き、俺と相性いいと思って。頼めるか?」
私の中で少しだけ冷えてた胸の奥が、ぽっと火がついたみたいに温かくなる。
『……もちろん!いいよ!』
「助かる!」
尾白くんが笑って、私も自然と笑い返してた。
ひとりで黙々とやってると、頭の中まで固まってくるけど、こうやって顔を合わせると、ちょっとだけ余裕が生まれる。
向かい合って構えを取ると、尾白くんの尻尾が小さく動いた。
『……本気で来ていいんだよね?』
「当たり前だろ!手ェ抜いたら怒るからな!」
ふっと笑ってから、私は息を吸った。
遠くの方で、勝己の大きな声が響いてて、焦凍が無言でこっちを横目で見てるのが見えた。
その視線が背中を押してくれるみたいで、肩の力が抜ける。
『……よし、行くよ!』
「来い、星野!」
合図も何もないのに、地面を蹴った瞬間、空気がぱんって鳴った気がした。
ひとりじゃ届かない“何か”を、
誰かとぶつかって掴む。
その先に、昨日より少しだけ強い自分がいる気がした。