第14章 仮免の向こう側【R18】
お腹の奥がまだぽかぽかしてて、口の端がずっと緩んだままだった。
みんなと歩く帰り道、窓の外から入る昼の光まで柔らかく見えた。
『午後、寝たら怒られるかな…』
「寝るなよー!」
後ろから誰かに背中を軽く叩かれて、小さく笑い声がこぼれる。
そんな他愛のない声が混ざって、廊下が少しだけ広く感じた。
少し後ろにいたはずの回原くんが、いつの間にかすぐ隣にいた。
私の左手に触れる指先が、ひやりとして一瞬だけ心臓が止まる。
『……え?』
問いかける前に、指が手首をゆっくり掴んだ。
気づいたら、笑いながら回原くんが口元に指を立ててる。
「しーっ」
そのまま引っ張られた。
みんなの声がする方向から、ほんの数歩離れただけなのに、廊下の隅は別の世界みたいに静かだった。
目の前にいる回原の顔が近い。
制服の袖が少し触れて、あったかい。
「……想花」
名前を呼ばれた声が、頭の奥に落ちていく感じがした。
笑ってるのに、どこか少し真剣で。
息をするたびに、胸が変に詰まる。
「戻ってきてくれて……ありがと。
……ほんとに、嬉しかったから」
言葉の端が、少しだけ震えて聞こえた。
目が離せなくて、なにか返さなきゃって思ったのに、喉の奥がきゅっと詰まって声が出なかった。
でも大丈夫みたいに、回原くんが私の手をぎゅっと握った。
それだけで、全部伝わってる気がした。
遠くの方で笑い声がこぼれる。
でもここだけ、誰も入れない空気みたいに静かだ。
回原くんが、耳の近くに小さく声を落とす。
「ちゃんと、ここにいてくれよな」
息がかかった耳が熱くなる。
視線が合った瞬間、少しだけ笑ってくれる顔が、胸にじんわり沁みた。
『……うん』
その時、遠くで怒鳴り声が弾けた。
「おい、回原ァァァァ!!!」
振り返ると、曲がり角に勝己が立ってて、隣に焦凍が腕を組んだまま目を細めてる。
『……ちょっ…!』
回原くんが私の手を離して、声を殺して笑った。
「ばれたー……行こ!」
制服の袖を引っ張られて、小さく息が漏れる。
『……もぉ……!』
戻っていく足音の向こうで、まだ手のひらだけがじんわり熱かった。