第14章 仮免の向こう側【R18】
訓練が終わって、校舎の影が長く伸びる頃。
汗だくのまま笑い合って、私たちは寮に戻った。
玄関を開けると、いつもの賑やかな声がどっと耳に飛び込んでくる。
切島くんと上鳴くんが腕相撲してるのを、三奈ちゃんが大声で煽ってて、
お茶子ちゃんはキッチンでお菓子をつまみ食いしてて――
そんな“日常”がちゃんとそこにある。
『……ふぅ』
部屋に荷物を置いて、私はこっそり廊下の端のベンチに座った。
ちょっとだけ、一人で空を眺めたくて。
窓の向こうには、オレンジ色に染まる空。
遠くで飛行機雲がひとすじ、ゆっくりと伸びていく。
『……啓悟』
小さく名前を口の中で転がす。
誰にも聞こえないのに、胸がじんわりと熱くなる。
「想花?こんなとこいたのー?」
ふいに背後から声がして振り向くと、耳郎ちゃんがドリンクを差し出してくれた。
『あ、ありがと……ちょっと風に当たりたくて』
「ふふ、そういう時あるよね。あんまり考え込みすぎんなよ?」
『……うん、わかってる』
ペットボトルの冷たさが、少し火照った手のひらを冷やしてくれる。
今はまだ、この小さな世界が私の居場所だ。
でも遠く離れたあの人のことを考えると、
この胸の奥に小さな灯が灯るみたいに温かい。
……会いたいな、って思ってしまう。
たぶん、あの人も少しくらいは思っててくれたらいいのに。
寮の中から、誰かの「ご飯だぞー!」って声が響いた。
いつもの笑い声に混ざって、私はそっと立ち上がる。
『……さ、戻ろ。』
いつかまた会う日まで。
ちゃんとここで頑張るって決めたんだから。