第13章 この手が届くうちに【R18】
『ただいま』
小さく漏れた声は、空気に吸い込まれてすぐに溶けた。
最初に振り返ったのは三奈ちゃんだった。
「想花!? 想花だよね!? 本当に帰ってきたんだ!」
弾ける声が私を引き戻すように、玄関にわっと人が集まってくる。
切島くんが「押すなって!」って笑ってる後ろで、お茶子ちゃんも上鳴くんも常闇くんも、
次々に駆け寄ってくる。
『……うん、ただいま』
声が少しかすれても、誰かが「おかえり!」って笑ってくれて、
一気に胸があたたかくなる。
誰かの手が背中を叩いてくれる。
誰かが「帰ってきてくれてありがとう」って、小さく呟いてくれる。
もう泣かないって決めたのに、目の奥がちくりと熱くなる。
「星野くん、よく頑張ったね」
大きな手が頭にぽんっと置かれる。オールマイトだ。
その隣で相澤先生が、少しだけ息を吐いて小さく笑った気がした。
「あんまり騒がせるなよ。でも――おかえり」
『ありがとうございます、先生…!』
掠れた声に、先生はちょっとだけ視線を逸らして肩をすくめた。
その空気を断ち切るみたいに、相澤先生の声が低く響く。
「で――お前ら。ちょっと来い」
ピクリと肩を揺らしたのは切島くんで、
勝己と焦凍が「チッ」と舌打ちしてるのが私にはちゃんと聞こえた。
緑谷くんは「は、はいっ……!」と情けない声を出して、みんなを笑わせてる。
『……あの、先生――』
思わず声をかける私を、相澤先生は視線だけで止めた。
「お前はいい。こいつらは別室だ」
クラスの空気が「ひぇぇ……」って笑い声で和む。
切島くんだけが「ま、しゃーねぇな!」と笑ってくれた。
『……行ってらっしゃい』
手を振る私に、4人がそれぞれ少し照れくさそうに手を挙げてくれた。
――大丈夫。
私の場所はちゃんとここにある。
背中の奥に、あの人の声を思い出しながら、私はもう一度小さく呟いた。
『ただいま』