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【ヒロアカ】re:Hero

第13章 この手が届くうちに【R18】


ホークスside

事務所のドアが開いた瞬間、
小さな背中が、光の中へ飛び出していった。

白い息を吐きながら駆け寄っていく姿が、
まるであの夜、暗闇からこっちへ戻ってきたときと重なって見えた。

……泣き顔じゃない。
昨日より少しだけ強くて、でもちゃんと弱さを隠さずに立ってる背中だ。

四人の真ん中に飛び込んだ彼女を見て、
胸の奥がほんの少し熱くなる。
あいつらの腕の中で泣く姿を、俺は誰よりも望んでたくせに――
いざ目の当たりにすると、少しだけ、心がわがままを言いたくなる。

開いたドアの向こうで、
彼女が一瞬だけ振り返って、
俺の視線を探すみたいに目が合った。

その瞳が、もう泣いてない。
ほんの少し赤く腫れてるのに、
ちゃんと笑おうとしてる。

――ほんと、強い子だ。

駆け出す後ろ姿を、
俺はただ立ったまま見送ることしかできない。
誰にも見せられない声が、喉の奥で引っかかって溶けていった。

ポケットに忍ばせていた手袋を外すと、
指先に残る温度を握り潰すみたいに、
ぐしゃっと掌に押し込んだ。

「……行ってこいよ」

心の中でだけ、小さく呟いた。

昨日の夜、あんなにも近くにいたのに――
この一歩外に出た瞬間、
俺たちは“プロヒーローと生徒”に戻る。

その線引きが、今日ばかりは心底、煩わしかった。

でもそれでも。
ちゃんと背中を守らなきゃならないのが、
“ホークス”って役目だ。

「――安心しろよ」

彼女の後ろ姿にだけ届く声で、
ポケットから無線を取り出す。

「お前ら、途中まで送ってやれ。……絶対、何があっても離れるな」

答えは要らない。
俺が信じる部下たちなら、それで十分だ。

握りしめた手袋の感触が、
まだ彼女の髪に触れた指先の温度を残していて、
どうしようもなく、もう一度抱きしめたくなった。

――また、すぐに会いに行く。
言えない約束を、心の奥で噛み殺したまま、
俺は事務所の扉を閉めた。
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