第13章 この手が届くうちに【R18】
冷たい朝の空気を切り裂くように、
事務所のドアが、静かにゆっくりと開いた。
四人の視線が一斉にそこへ向く。
まぶしい朝日を背に、小さな影が立っていた。
少しだけ癖のついた髪が風に揺れて、
その影――想花は、一歩ずつ、ゆっくりと歩いてくる。
昨日までの張り詰めた空気が嘘みたいに、
ぎこちなくても確かに、柔らかな笑顔をまとって。
「想花……!」
誰が先に名前を呼んだのかなんて、誰も覚えていない。
気がつけば、あいつは駆け寄ってきていた。
遠慮なんて、どこにも無かった。
走り寄る小さな足音。
肩で息を切らして、その目に光る涙が朝日にきらめいた。
ほんの一瞬だけ、何かを堪えるみたいに立ち止まって――
それから迷いを振り切るように、勢いよく四人の真ん中へ飛び込んでくる。
『……ありがとう……っ……!』
声は掠れていて、泣き笑いみたいで。
震える肩が、四人の胸を順番に叩くように触れる。
『……ごめん……ありがとう……あの場所から……助けてくれて……!』
震える声は、途切れ途切れで、それでも必死に伝えようとしていた。
轟も、爆豪も、緑谷も、切島も。
互いに視線を交わす余裕なんて無い。
ただ、それぞれの腕が、自然に伸びて――
この小さな体を、壊れものみたいに、でも絶対に離さないように抱きしめる。
「……っ、無事で……ほんとに……よかった……!」
緑谷の喉が震えて、声が滲む。
切島は堪えきれない想いを背中に叩き込むようにして、泣き笑う。
「……バカ野郎……もう、二度と……勝手にどっか行くな……」
爆豪の声は誰よりも小さくて、でも胸の奥まで刺さるほど熱かった。
轟は何も言わずに、そっと額にかかる髪を撫でてやる。
四人の腕にすっぽりと収まったあいつは、
声を殺して、小さく、小さく泣いた。
涙の一粒一粒が、彼らの胸を打つように、静かに落ちていった。
「もう大丈夫だ……どこにも行かせない……」
誰の声だったのか、もう分からない。
けれど、その声は確かに全員の想いだった。
朝の光に包まれて、
昨日までの冷たさを全部溶かすように――
この手の中に生きてるぬくもりが、確かにあった。