第13章 この手が届くうちに【R18】
あたたかい重みが、右腕に寄り添ってる。
彼女の寝息が、胸元にふわりと触れて、まるで幸せそのものみたいだった。
昨夜、あんなにも泣いてたのに――今は静かで、穏やかで。
まるで何もかも溶けてしまったように、俺の中にすっと溶け込んでいた。
……いや、違う。
溶けたんじゃない。もう、彼女が俺の一部になってしまった。
少し動くと、シーツが肌に絡む。
昨夜の温度が、ところどころにまだ残っていて、思い出すだけで喉が渇いた。
でもそれ以上に、胸の奥で何かが――
いや、“確信”が、疼いた。
彼女の肩にそっと指を滑らせながら、
無意識に数時間前のことを思い出してた。
ひとつひとつの反応、
震える呼吸、揺れる瞳、戸惑いながらも俺を受け入れた仕草――
それらが、どこか“ぎこちなくて”、
けれどすごく丁寧で、一生懸命で。
それがあまりにも、愛おしかった理由。
その理由に、俺はようやく――気づいてしまった。
「……嘘だろ」
小さく漏れた独り言は、誰にも聞かれてない。
でも胸の奥に突き刺さって、簡単には抜けなかった。
彼女にとって、
昨夜が“初めて”だったんだ。
(まさか、俺が……?)
呼吸が止まりそうになる。
余裕なんてもの、全部吹き飛んだ。
俺、こんなにテンパることあったっけ……?
だって――
あんなに辛い過去があって、
誰にも言えない傷を抱えてた彼女が、
それでも俺に、全てを預けてくれたんだ。
この腕の中で、泣いて、震えて、
それでもちゃんと俺を見て、名前を呼んで、
すべてを、くれた。
「……っ、バカ……お前、バカだよ……」
情けなくて、情けなくて、
でも愛しくて、どうしようもなかった。
思わず、彼女の手をそっと握りしめた。
「……ありがとう。俺を、選んでくれて」
声に出すと、喉の奥が詰まりそうだった。
彼女の“はじめて”が、俺だった。
ただの行為じゃない。心を預けてくれたってことだ。
その意味を、誰よりも知ってるからこそ――
俺の中に、何かが深く沈んでいった。
(もう……絶対、手放せないな)
この命に代えても、守るって、そう誓った朝だった。