第13章 この手が届くうちに【R18】
ホークスside
ソファに並んで座るその距離は、さっきまでより、ほんの少し近い。
彼女が泣いて、笑って、名前を呼んでくれて――
たったそれだけのことで、俺の中の何かが、決定的に変わってしまった気がする。
もう、迷わなくなった。
俺は、守りたい。
この手で、何度でも抱きしめたい。
過去も、傷も、すべてを知ったうえで、それでもなお――彼女を愛したい。
そっと、彼女の頬に触れる。
さっきまで濡れていたその場所を、親指で優しく拭いながら、そっと囁いた。
「……触れても、いいか?」
彼女はほんの少しだけ戸惑って、それから、こくりと小さく頷いた。
その仕草が、どれだけの勇気を必要としたのか。
俺は、ちゃんと分かってる。
だからこそ――
今夜だけは、世界の誰よりも優しく、
彼女を包み込む。
俺の膝に、小さな身体を乗せるように抱き寄せると、
彼女の体温が胸の奥にじんわりと染みこんできた。
「大丈夫……俺の手は、お前を壊さない」
そのまま、髪に、額に、そっとキスを落としていく。
何も急がない。
ただ、愛しさだけを重ねていく。
傷跡に触れる指先も、
怯えるように伏せたままの瞳も――
全部、俺が愛おしくてたまらなかった。
「お前が今、ここにいるってことが、俺には奇跡なんだよ」
言いながら、自分でも胸が詰まりそうになって、苦笑した。
たぶん俺の方がずっと、彼女に救われてる。
「だから……もう、俺に甘えてよ」
そう囁いて、もう一度、柔らかく抱きしめた。
まるで宝物みたいに、大事に、大事に。
彼女の指が、そっと俺のシャツを握り返してくれたとき――
その小さな“許し”が、何よりも尊くて。
「お前のこと、ちゃんと愛してる」
耳元で囁いたその言葉に、彼女が小さく震えた。
でももう、逃げようとはしていなかった。
だから俺は、
もう一度、彼女の唇にそっと触れる。
あたたかくて、切なくて、
それでも確かに生きている、そのぬくもりに――
「……全部、忘れさせてやるよ」
そう、強く、心から願った。