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【ヒロアカ】re:Hero

第13章 この手が届くうちに【R18】


ソファの上。
ふたりの手が重なったまま、時間だけがゆっくりと流れていた。

啓悟の名前を呼んだあの瞬間から、
どこか世界の色が変わったような気がしていた。

安心、というにはまだ早くて、
でも確かに、心のどこかが静かになっていた。
彼のそばにいるだけで、深く息ができる。
そんな不思議な安心感。

ぽたり、と。
涙のしずくが頬を伝って落ちたとき、
啓悟がそっと手を伸ばして、私の髪を撫でた。

その手つきが、あまりにもやさしくて――
胸の奥がじんわりと熱くなる。

『……ごめん、なんか……まだ、信じられないみたいで』

泣いてばかりの自分が恥ずかしくて、
わざと笑おうとしたけど、うまくいかなかった。

「信じなくてもいいよ。……ただ、今は俺がそばにいるってだけ、分かってくれたら」

その声が、あまりにも静かで。
その目が、まっすぐで、あたたかくて。

ほんの少しだけ、距離を詰めた。
触れるか触れないか、そんなところで止まった私を見て、
啓悟がふっと目を細めて、微笑んだ。

「大丈夫」

その一言が、胸に沁みた。
誰かに、触れるのが怖くて、でも触れてみたくて。
壊してしまいそうで、でももう、壊れていたくなくて。

彼の手が、私の頬に添えられた。
やわらかくて、包み込むような、翼みたいなあたたかさ。

『……怖く、ないの?』

「なにが?」

『私……ぐちゃぐちゃにされそうになって、いっぱい泣いて、いっぱい傷ついて……それでも、こうしてることが』

啓悟は、すこしだけ目を伏せて、
それから、まるで何でもないことみたいに――

「それが、“生きてる”ってことじゃん」

そう言って、私の額にそっとキスを落とした。

小さな音も立たないほどのやさしさ。
でも、胸の奥にぽたりと何かが溶けていった。

『……啓悟』

名前をもう一度呼んだ。
今度は、震えずに。

ふたりの距離が、心と一緒に、すこしずつ――確かに、近づいていく。
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