• テキストサイズ

【ヒロアカ】re:Hero

第13章 この手が届くうちに【R18】


想花side


彼の声が、夜の静けさにそっと溶けた。
その響きは、いつもの軽さも、強さもなくて――
まるで、長い間心の奥に押し込めてきた痛みが、ぽつりと零れ落ちたみたいだった。

「……俺、ヒーローになりたくてなったんじゃないんだ」

淡々とした口調の奥に、重く沈んだものがあった。
子どもの頃に閉じ込められたような孤独。
どれだけ泣いても届かなくて、
どれだけ願っても誰も来てくれなかったあの日々。

言葉の隙間から滲むその記憶に、胸がきゅっと締めつけられる。

彼の瞳に、ふと影が揺れる。
いつも遠くを見ていたその目が、今は、過去を見つめていた。

「ずっと、“ホークス”でいろって言われ続けてきた。
“鷹見啓悟”は、置いていけってさ」

静かな言葉の中に、積み重ねた苦しみが見えた気がして、
私は思わずシャツの袖をきゅっと摘んでいた。
そこに、なにか返したくて、でも言葉が見つからなくて。

「……だから」

ほんの少し、彼が息を吸う。

「お前だけは……俺の名前を、呼んでほしい」

その目が、まっすぐに私を見つめていた。
逃げも隠れもしない、傷だらけのままの想い。

それを受け取った時、私は――
胸の奥で何かが静かに揺れた。

彼にとっての“名前”は、ただの呼び名じゃない。
失われかけた本当の自分でいられる、唯一の拠り所。
それを私に託してくれたことが、嬉しくて、苦しくて、たまらなくて。

私はそっと、彼の手に手を重ねて――

『……啓悟』

そう呼んだ。
彼の名前を、確かに、この胸から。

たったそれだけの言葉なのに、
彼の瞳が優しく揺れて、そっと指先が私の手を包み込んでくれる。

その温もりに、こらえていた涙がふわりと溢れた。

どれだけ離れても、傷ついても、
こうして帰ってこられる場所があるってこと。
今、私の心がそれを――教えてくれていた。
/ 664ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp