第13章 この手が届くうちに【R18】
ホークスside
ふたりで並んで座るソファ。
テレビもつけず、灯りはスタンドの明かりだけ。
外はまだ夜のままだけど、部屋の中は不思議と静かだった。
彼女の手が、俺のシャツの袖を少しだけ摘んでいて。
それだけで「ここにいていい」って思えた。
しばらく何も言わずにいたけど、
ふと、ぽつりと過去が零れ落ちた。
「……俺さ、ヒーローになりたくてなったわけじゃないんだよ」
驚いた顔を向けられて、ちょっとだけ笑ってみせる。
「子どもの頃、うち、結構ひどくてさ。
逃げ道、他に無かったんだ。助けなんて、誰も来なかった」
小さい頃の記憶は、今でも胸に鉛みたいに沈んでる。
父親の怒鳴り声、母の沈黙。
泣いても、願っても、誰も手を差し伸べてくれなかったあの日々。
「俺にとって“ヒーロー”って、希望だった。
でも、同時に、縛りでもあった。……ずっと、鷹見啓悟じゃなくて、“ホークス”でいろって言われ続けてきた」
声がほんの少しだけ震えたのを、隣にいる彼女は気づいたかもしれない。
でも、何も言わず、ただ、そっと袖を掴む手に力が入った。
「だから――」
そこで、ほんの少し、勇気を出した。
「……お前にだけは、呼んでほしいって、思ってた」
目を逸らさず、真っ直ぐに彼女を見つめた。
「俺の、名前。"鷹見啓悟"っていうんだ」
胸の奥で、心臓が跳ねる。
「……“ホークス”じゃなくて、“俺”として――傍にいてほしいんだ」
彼女の表情が、ゆっくりと揺れて、
瞳に光が宿ったその瞬間、何かが確かに通じた気がした。