第13章 この手が届くうちに【R18】
想花side
『……ここ、どこ……?』
目を覚ました瞬間、柔らかいクッションの感触と、
外の風の音じゃなく、窓越しに届く静かな空気に気づいた。
見慣れない天井。
けれど、なぜか――落ち着く匂い。
『……ホークス……』
呼ぶ前に、隣にいた。
彼は椅子に腰かけて、眠ってたみたいだったけど、
私の声でふっと目を開けて、優しく微笑んだ。
「気づいた? ……ここ、俺んち。とりあえず、落ち着ける場所にって思ってさ」
その声だけで、肩の力が抜けていく。
「病院よりも……お前の心が、少しでも休まる場所がいいと思って」
『……うん……』
彼の優しさが、痛いくらいに沁みる。
それだけで、泣きそうだった。
「汚れてなんか、ないのにさ」
彼がぽつりとそう呟いたのが聞こえた。
私が言った言葉を、きっとずっと気にしてくれてたんだ。
「お風呂、わかる? ちょっと……綺麗にしてやりたくて」
『え……?』
「もちろん、ひとりでいい。……俺は外で待ってる」
そう言って彼は立ち上がり、
私のことをそっと支えるように抱きかかえてくれた。
何も言えなくなる。
温かくて、優しくて、でも絶対に壊さない強さで。
ただ、真っすぐに私を守ってくれてる。
バスルームの扉の前で、彼は一瞬だけ私を見て――
そっと手を離した。
「……大丈夫。焦らなくていいから」
優しい声だった。
それだけで、身体の芯がほどけそうになった。
私は、濡れた服のまま鏡の前に立って、
ボロボロの自分を見下ろす。
でも――
“もう、ひとりじゃない”
そう思えたのは、
あの人が、無言で背中を預けてくれるから。
蛇口をひねって流れる水音の中、
私は、そっと目を閉じた。
(ちゃんと……戻ってきたんだ)
涙じゃない何かが、頬を伝っていった。