• テキストサイズ

【ヒロアカ】re:Hero

第4章 優しさの証


会議室が静まり返る。

相澤先生が、低く呟いた。

「……隠す理由があるんだな」

私は、小さく頷いた。

 

『……五歳の時に、この個性を使ってしまって……家族を、奪われました』

『相手の顔は見ていません。でも――声は、今でもはっきり覚えてます』

 

言葉にした瞬間、胸の奥で静かに開いた、あの夜の記憶。

玄関が開いて、冷たい“何か”が、家の中に入り込んできた。

顔はわからなかった。ただ、重たく低い、冷たい声だけが。

 

『――逃げられると思うなよ』

 

『……その声を聞いた直後、父が私を“おばあちゃんの家”に、個性で逃がしました』

『……でも、そのまま……二人とも、戻ってきませんでした』

 

言い終えたとき、肩がかすかに震えていた。

でも、もう泣かなかった。
もう泣ききってしまったから。

 

『私は……その声の主を、ずっと探しています』

『あの人が、なぜ私を“狙った”のか。どうして、あの夜、家に現れたのか――』

『もう、自分のせいで大切な人を失いたくない。……だから、ヒーローになりたいんです』

 

オールマイトは、ひと言もはさまず、私の声を受け止め続けてくれていた。

その瞳に浮かぶ光は、どこか深く、静かに揺れていた。

「……よく話してくれたね、星野くん」

「君はもう……自分の中に“ヒーロー”を持っている」

 

相澤先生は、腕を組んだまま、わずかに目を細める。

「背負ってきたものは重い。だが……背負ったまま進める奴だけが、ヒーローになれる」

 

私は、こくりと頷いた。

『……はい』

 

凍りついていた心の奥に、少しだけ灯るぬくもりがあった。

深く、頭を下げる。

『ありがとうございます』

 

あの日、たったひとつの――
「逃げられると思うなよ」から始まった、私の物語は。

今、初めて……誰かに、ちゃんと受け止めてもらえた。

それだけで。
前を向く力が、少しだけ強くなった気がした。
/ 664ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp