第4章 優しさの証
放課後の教室。
カバンに教科書をしまいながら、窓の外に少し目をやっていた時だった。
「星野、ちょっと来い」
低くて重たい声が背後から落ちてきた。
振り返ると、相澤先生が教室の入り口に立っていた。
無言のまま、その鋭い眼差しだけで私を促してくる。
なんとなく――ただごとじゃないって、わかってしまった。
私は小さく頷いて、静かにあとを追う。
辿り着いたのは、校舎の一角。人気のない小さな会議室。
ドアを開けた瞬間、空気が変わった。
その部屋には、もうひとり――オールマイトだった。
いつもの笑顔はなく、静かで真剣な目がこちらを見ていた。
「ようこそ、星野くん。すまないね、急に呼び出してしまって」
「…少し、大切な話をしたくてね」
彼の声は柔らかかった。でも、その中にある重みが、心に響いた。
カチリと、心のどこかが引き締まる。
相澤先生が静かに切り出す。
「個性の提出内容。…“身体能力強化”」
「だが今日のお前は、“凍った床の上”で平然と動いていたな」
淡々とした声。けれど、その視線はごまかしを許さない。
「ただの筋力じゃ、説明がつかない動きだった」
私は唇を結び、黙ったまま二人を見つめた。
先生の鋭さと、オールマイトのまっすぐな目。
逃げ場のない空間で――それでも、どこか安心していた。
「ここにいるのは、お前の担任と、ナンバーワンヒーローだ」
「誤魔化すのは……得策じゃない」
その言葉を聞いたとき、私は決めていた。
この人たちには、話してもいいって。初めて、そう思えた。
私はそっと息を吸い、静かに口を開いた。
『……私の個性は、“想ったことが現実になる”力です』
二人の気配が、わずかに動いた。
『でも、なんでもできるわけじゃありません』
『使えば体力を消耗するし、傷を治せても命を削る感覚がある』
『だから、今は“身体能力強化”の範囲で留めてるんです』
ゆっくりと、胸の前で両手を合わせる。
ほんの少しだけ、個性を起動する。
一瞬で、髪の色が変わった。
光を弾くような銀へ。
瞳もまた、鮮やかな青に――本来の自分へと還っていく。
『……これが、本来の私です』
言葉を終えると、胸の奥の重みが静かに落ちていった。
ほんの少しだけ、呼吸が軽くなるのを感じた。
でも同時に、これからが“始まり”なんだと――肌が知っていた。
